あままこのブログ

役に立たないことだけを書く。

むしろ「就活くたばれ」と言ってこなかったからこそ今の惨状があるんじゃないの

ページが見つかりません−北海道新聞
なかなか面白いことをやっている人たちがいるそうで。
で、面白いことって言うのは往々にして非難を浴びるもので、案の定ソーシャルブックマークはてなブックマークでは賛否両論。まだ2chの方は見てないけど、その内「痛いニュース」とかで取り上げられて、このデモへのバッシングがまとめられたりするんじゃないかなぁと思ったりする。
はてなブックマーク - 就活に不満、学生がデモ 札幌中心部で−北海道新聞[道内]
で、これについて思ったことを語る前に、とりあえずちょっと僕の立ち位置について書いておく。*1
僕は今地方大学の四年生で、一応来年の春に卒業することになってます。で、卒業後の進路なんですが、まぁ未定です。というのも夏に大学院入試を受けたんですけど見事に失敗しまして、一応冬に受けようかとは思ってますが、正直受かる自信は全然ありませんと。
で、じゃあ就活でもしているのかと聞かれれば、実は僕自身は、就活全くしてないんですね。いや、してみようかとはおもってたんですけど、地方だから東京にまで出なきゃいけないわけだけど出るの面倒だし、色々企業調べてみたけどどれも「やりがい」だとか「コミュニケーション能力」だとかそういう危険で、更に僕がだいっ嫌いなワード並べてくるし、それに面接とかは怖い話一杯聞くしってことで、どーにもやる気が起きなかったんですね。ただ、そうは言っても僕は就活一切していないことには変わりありません
まぁ、だから正直デモしている人たちより酷いです。そしてそんな酷い奴が、更に一人前に「就活」について語ろうっていうんだから、まぁ怒られるだろうなーと思ったり……でも書いちゃうもんね。

まず原則論

というわけで、前置きはそれぐらいにして就活の話。
上記のブクマでは、案の定「こんなデモやってる暇あったらさっさと就活しろ」っていう話が多いですね。まぁ、これに対しては「いや就活やりながら一方でデモしてるんでしょ」*2とか言うことは出来ますが、しかしそれ以前にまずそのようなバッシングに問うべきことがあります。それは
「『今の就活』が嫌だからそれを変えるためにデモしてるんだから、『今の就活』をデモする人が拒否するのは当然でしょう」
ということです。考えてもみてください。「○○社はもっと環境に配慮しろ!」とかいうことを主張するデモに参加する人が○○社の製品使ってたら、むしろそっちの方がおかしいでしょう?あるいは「国は高額所得者にきちんと課税しろ!」とかいうことを主張するデモの参加者が高額所得者で脱税していたら、そっちの方が言行不一致になるわけです。就活についたってそれは同じ。今の就活を批判する人が今の就活をボイコットする。それはきわめて真っ当な運動のやり方であって、むしろそれを批判する人の方がちょっと意味が分からない訳です。
もちろんそこで「いや今の就活は結構良いもんだ」とバッシングする人が主張されるのなら、それはそれで結構。あなたのその立場に沿って、デモの主張を批判すればよろしい。ですが、少なくとも「今の就活はおかしい」という立場から考える運動論として見た場合は、このデモは全く正当な「運動」であるし、それを運動論の立場から批判される人は、じゃあこういうデモではないやり方でどうやって「今の就活」を変えることが出来るか?述べられるんなら述べてみて欲しいですね。

ずっと我慢してきた結果がロスジェネの惨状じゃん

そして更に言えば、「デモする暇があったら就活」という戦略がどんな惨状を産んできたかについては、それこそ僕らの二つ上*3の、氷河期世代において実証されているといっても良い訳です。
氷河期世代、あるいはロストジェネレーションっていうのは、言ってみればそれこそ「デモする暇があったら就活」という戦略を愚直に実行してきたわけです。社会なんか当てにするな。とにかく自分たちが自己責任で自助努力で生き残るように頑張れば、結果として何とかなるんだと、そんな風に頑張ってきたわけです。
しかしその結果は?と問い直してみれば、非正規雇用はどんどん増えていき、正規雇用においても過労死が増大。下に行けば給料は安くしかもその安い給料ですらいつ途切れるか分からない生活で、かといって上に行ってもこき使われてうつ病になるだけ。そしてまたそのような地獄を最初に見せつける関所として、就活もまたどんどんメチャクチャなものへとなっていき、改善の兆しなんか一向に見られない。これが、繰り返しますが「デモする暇があったら〜」戦略の結果なわけです。
そして、今また氷河期が全く似たような感じでやって来ようとするわけです。そんな時に、またその失敗した「デモする暇があったら〜」戦略を、一体誰が採用するっていうんでしょう?もし「いや今度はこの戦略で上手くいくんだ」とか言う人が居たとしたら、むしろそんな人間の方がおめでたい超楽観主義者に見えて仕方ないんですがねぇ。自己責任・自助努力のロスジェネは明らかに失敗しているわけです。だとしたら、その失敗は二度と繰り返さないように戦略を変更するっていうのが、普通に学習する人間の当然の有り様なわけです。

厳しい就活だからって頑張ることはむしろ自殺行為である

そして更に言えば、「就活が厳しいからこそ、就活から逃げちゃ駄目なんだ」という論理は、まさに自己矛盾の論理でもあるわけです。
そもそもなんで「厳しい就活」なんてものが現れるのでしょうか。それは簡単に言えば企業の人材需要が低いからでしょう。つまり、企業は余り人材を欲しがっていない。そこでもし学生が「就活が厳しいから頑張らなきゃ」となって、より多くの学生が就活市場になだれこんだら一体どうなるか。答えは明白です。需要に対して供給が過多になり、その結果供給が買い叩かれる。その状況は需要である企業側にとっては得ですが、それは逆に言えば供給である学生側にとっては損にしかならないわけなんです。「就活が厳しいから就活頑張らなきゃ」とするのは、学生にとって損なんです。極めて市場原理主義的に考えても、というか考えるからこそ、「就活が厳しいからこそ、就活から逃げちゃ駄目なんだ」という論理は通用しないんですね。
一方でしかし、「厳しい就活のときは就活から逃げて、ゆるい就活の時にこそ就活を頑張るべき」という逆の論理も、今の日本の状況では通用しないと反論する人もいるかもしれません。しかしそれは、市場原理というくつがえしにくいものではなく、「新卒優遇」という、日本の局所的かつ文化的な障壁、つまり「くつがえそうと思えばくつがえせるもの」によって、通用させられなくされてるだけなのです。だとしたら、その障壁を撤廃するために運動をして、そしてきちんと「厳しい就活のときは就活から逃げて、ゆるい就活の時にこそ就活を頑張るべき」という論理が働く社会にしようとするのは、極めて理にかなったことではありませんか?
むしろ逆に聞きたいのですが、「就活が厳しいからこそ、就活から逃げちゃ駄目なんだ」という論理を主張する方は、それがどんな労働市場によって達成すると考えているのでしょう?「今は厳しくても、会社に入ってしまえば景気は好転して良くなる」とでも考えてるんですか?それ、およそ10数年前にもされた発言なんじゃ、ありませんかねぇ。そしてその結果は、どうなったんでしょう?

ただ一方で、デモの主張に言いたいこともある

僕が一番気になったのは、このデモが誰を敵とし、何を目標としているかということなのだ。
どうも記事だけを読んでいると、このデモが批判しているのは所謂リクルートだとかの求人仲介業であったり、あるいは採用活動を行う企業を対象にして、就活の方法(多すぎる面接やら新卒優遇やら)や、就活枠の少なさを訴えている様に見える。
それ自体に効果があることを僕は否定しない。今の就活の方法っていうのは、確かにそれこそ誰も幸せにならない方法を、ただ単に「昔からの慣習だから」とか「その方が格好が付くから」とかいう理由で採用していたり、あるいは求人枠の少なさにしたって、企業が不当に人材費を削減して、少ない求人枠で雇った少ない社員に過剰労働をさせ、その代わりに内部留保を貯め込んでいるっていう側面もあるから、そのようなことを批判するのも悪くはないだろう。むしろ絶対良い、どんどんやるべきだ。
ただ一方で、しかしそうはいっても企業がそんな人々の言うことを聞く「良い企業」でありうるなんていうことは、そもそもないんではないかという考えも、僕にはあるわけだ。企業って言うのは、それが資本主義経済の元にある企業である以上、労働者を搾取し、それによって資本家に利益を与えるための企業であり得るし、それを幾ら口で批判しても改善なんか絶対しない。
だとしたら、そんな企業に訴えを起こすよりも、むしろそのような企業以外に自分たちの生活を頼るところがない、今の社会や政府こそを批判すべきではないかと、そう考えるのだ。
「就活くたばれ」デモは、しかしその「就活くたばれ」という名前とは裏腹に、「就活を“改善”する」方向性を持っているように思える。そして、それ自体も重要なことなのだが、しかしそれだけじゃあやっぱりだめなのだ。どんなに就活が改善されても、やっぱり不景気の時には企業は求人枠を削減してくる。そうなった時、「就活」以外の道、というか就職以外の道も社会が担保すること。もっと具体的に言うならば「無理に働かなくても良い社会」を構築すること。「就活くたばれ」ということを叫ぶのなら、そこまでのことも一方では考えなくてはならないのではないかと、思うわけだ。

*1:まぁ、このブログの常連読者にはほんと何遍も同じ話聞かされることになるわけだけど

*2:別に就活やってたってその合間にデモすることなんか全く可能だし

*3:一つ上は金融危機以前になんとか逃げ切った