あままこのブログ

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二次元キャラクターの「政治利用」はどこまで許されるか

コミケで見かけた看過できないチラシ by 後藤和智 - Togetter

1枚目。緊縛された霊夢。作者は何を思って描いたのだろう... on Twitpicより引用)
このtogetterのまとめでは、上記に引用したコミケのサークルに配布されたチラシに、東方というゲームのキャラクターである博麗霊夢のイラストを使って、人権侵害救済法案やTPPを批判する内容があったことを批判しています。
で、まぁこういう二次元のキャラクターを政治利用することが不快であるのは僕も同じですし、そういうことについてはこれまでも何回か批判してきました。

ただ、逆に今まで批判してきたからこそ、しかしこういう政治利用や、それに似ている行為はいっぱいあることを知っているし、それらの一部はむしろ人々から賞賛されてきたことも知っているわけです。

今回の東方チラシとルイズ国旗の違いってなんだろう?

例えば、以前こんな画像がネットで話題になりました。

痛いニュース(ノ∀`) : 【英国】 新・英国旗デザイン案、ネット投票…1位は「グレン団」、2位は「ルイズ」(2ちゃんねらー考案) - ライブドアブログより引用)
これは、日本で考案されたイギリスの新国旗が、イギリスの新聞で紹介されたという事件で、多くの人々は、これを「イギリス人はユーモアがわかっていていいね」と、好意的に捉えたわけです。
しかし下記のページで指摘されているとおり、これは明らかに、イギリス国内での保守派が、ウェールズ地方の自治権要求を揶揄するためのネタとして、ルイズを利用した「政治利用」なわけです。
[http://nekoare.blog30.fc2.com/blog-entry-1793.html:title=日本から応募した英国ルイズ新国旗、投票の結果めでたく2位に…英新聞で発表?]とかもう見てらんない

よっし。じゃあバカなお前らのためにわかりやすく日本に置き換えてやる。
たとえば社民党が「沖縄やアイヌの文化も取り入れた新しい国旗を作るべきだ!」って提案したとしよう。
そしたら読売が「へー。いーんじゃない。じゃあ紙面で募集してみるよ」って言う。
そこにバカな米人が「日本といえばGo Go Yubari!!」って言って白地にモーニングスターを描いたデザインを送ってきた。
それを読売が得々として「日本のメディア戦略を反映した良い案かもね」っつって載せた。
その真意は。
「ホラこんなダサイのが来ちゃったよ。日の丸が通用してるし日の丸カッコイイんだから日の丸のママでいいじゃん。なんなら旭日旗にしようよ。日本の中心は東京、というか皇居なんだし辺境の貧乏人どもの言うこと聞く道理はないよね。しょせん社民党なんて図体ばかりでかくて脳みその無い米人と同レベルなんだよプゲラ」だろ?
国旗が変わるとは思ってないけど、ちょっとだけの地位向上を期待してた沖縄人はどう思うかね?
あー……なんか日本の喩えにしたらねらーが喜びそうな結果になっちゃったな。
まぁそこで労働党を貶すための「バカな米人」にされてそんなに喜んでるのはそれこそバカだぜ?
無駄なところで沖縄県民の恨み買ってたのしいか?
っつう話だよ。

あるいは、こんな画像もネット上では話題になりました。
ぱんだ とらんすれーたー : 【追記】 アメリカ陸軍がQBと契約してたwwww まどか☆マギカ 海外の反応

そしてこの画像にはこんなコメントがされています。

13:The REAL Lamberto
アメリカ陸軍に入隊する良い理由が出来たわ

10:Hachi-Machi
ビン・ラディンワルプルギスの夜の翌朝(4月30日〜5月1日までが実際のヴァルプルギスの夜の期間)に殺された・・・。偶然なのか?それともまどかがやったのか・・・?

11:KodeDekka
まどかが殺したんだよ!

これもある意味では、アメリカ軍の戦意高揚や、対テロ戦争といったことにまどか☆マギカのキャラクターが「利用」されていると捉えられます。ですが、これに対するネットでの反応も、別に批判的なものは殆どありませんでした。
同じようなことは、アメリカ軍だけではなく、日本の自衛隊でもなされました

『まどか☆マギカ』入間基地航空祭の救難デモンストレーションのBGMにED『Magia』がかかる:萌えオタニュース速報より引用)
まぁ、今時の人は、自衛隊にまどか☆マギカのキャラクターが利用されていたって、それのどこが政治利用なのか分からないかもしれませんが、少なくともある時期までは、自衛隊というものの存在自体が政治的問題だったわけです。ですから、自衛隊を応援する風な利用の仕方は、自衛隊というものが政治的問題であると考える人にとっては、政治利用という風に思えるわけです。
とまぁ、このようにこれまでも二次元のキャラクターは様々な形で「政治利用」されてきたわけです。そうなると、一体今回問題となった東方のチラシの何が、これまでの「政治利用」と違い問題になっているのか、どーもよく分からなくなってきます。

問題は「著作権」でも「政治」でもない

著作権的にはむしろ……

「東方という他人のキャラクターを使うのがよくない!」という声もあるかもしれません。しかし、先ほど挙げたような「政治利用」も全て他人のキャラクター、それも、東方のように二次創作が許可されているキャラクターではないキャラクターなわけです。
一方東方においては、キャラクターの二次利用は
上海アリス幻樂団創作物の二次創作・使用関連ページ
に書かれているようなガイドラインで規制されているわけですが、このガイドラインにおいては二次創作は即売会などでの頒布においては許可するとされており、また政治的利用を禁止するといった条項はありません(連絡先を書くようにすべきという「推奨事項」はありますが)。ですから、「著作権」ということを問題にするならば、むしろ今回の東方のチラシのほうが、より合法的であるということができるでしょう。
ですが、それが「合法」であることは、即「問題でない」ことを意味しませんし、「違法」であっても、「問題となる」とは限らないわけです。

何が「政治」なのか

一方、今回のチラシに書かれていた文章の内容が問題であるという声もあります。私がこの記事で挙げたようなルイズ国旗やまどマギエンブレムは「政治問題」ではないが、TPPや人権侵害救済法案は「政治問題」である、という観点です。
しかしこれも極めて曖昧な基準です。逆に、このチラシを作った側からしたら、TPPや人権侵害救済法案に反対するのは、難しい政治と関係なく、オタクなら誰でも反対すべきことであるのかもしれません。
何が「政治」で、何が「政治でない」かということは、大変微妙な問題です。例えば普通、個人がどういうものを好きになるかといった「個人的なこと」は「政治的なこと」とは全く無関係であると思われています。ところが、フェミニズムという思想においては「個人的なことは政治的なこと」という言葉があります。これはどういうことか、乱暴に説明してしまえば、例えば「男は女が好きになる。女は男が好きになる」ということは個人の趣向であるとされてきましたが、しかし実際は、社会や政治によって押し付けられてきたことである、政治的問題であるということなわけです。このような観点からすれば、例えばあるギャグマンガ

同性愛はいかんぞ!非生産的な!

という言葉がありましたが、これもまた政治性を持つメッセージとして解釈されるわけです(実際、問題とする人もいます。cf.「同性愛はいかんぞ! 非生産的な!」というギャグがまかり通るなら - みやきち日記)。
つまり、どういう内容のメッセージであっても、ある観点からすれば、それは「政治利用」としてみなされるかもしれないわけです。とするならば、問題となるのは「政治利用」を一括して問題とすることではなく、どのような「政治利用」なら問題となるのかどうかを、決めることなのではないでしょうか。

問題は「情緒において人の心を動かすこと」……なのか?

ここで、「そもそも何でキャラクターの政治利用が問題となるのか」、根本的に考えてみる必要がありそうです。。
僕にとっては、一番最初に貼りつけたチラシの嫌悪感というのは、つまるところ「博麗霊夢というキャラクターの魅力が、そのまま政治的メッセージとつながっている」という点にあります。博麗霊夢というキャラクターが縛られており、そしてその縛るものとしてTPPや人権侵害救済法案が暗喩されている、そうなると博麗霊夢を好きな人達は自然とTPPや人権侵害救済法案に嫌悪するようになるわけです。二次元のキャラクターはそういうふうに、理性ではなく情緒において人々の心を動かす力があり、それが「二次元のキャラクターを政治利用してはいけない」という倫理の根拠となっているのではないかと、少なくとも私は考えるわけです。とするならば、必要なのは、政治性を持つものと関わる時に、そのような「情緒において人の心を動かす力」を利用しないことではないかと思うわけです。*1

これから先、こういう問題はどんどん出てくる

ただ、その観点からすると、先で挙げたようなルイズ国旗やアメリカ軍・自衛隊によるまどマギ利用も、「情緒において人の心を動かす力」を利用していると言えるわけで(だから私は、先に挙げた政治利用は全て許せません)、世の中の多くの人々は「ルイズ国旗とかは許せるけど今回のチラシは許せない」という位置にあるでしょう、とするならば、そこでは全く別の理由から「二次元キャラクターの政治利用」が否定されるわけです。多分その理由は人によって様々なわけで、まずはその根本的なところから、議論を始める必要があるでしょう。
しかしいずれにしても、これから先、オタク文化がよりメジャーなものになるにつれ、こういう二次元キャラクターの政治利用はどんどん増えていくわけで、ただこの東方チラシを叩いてそれで終わりという程度の問題では、無いように思えます。

*1:例えば、二つの相反する政治的立場のもそれぞれの言い分をそれぞれキャラクターに語らせるとか