あままこのブログ

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アニメイベントでの石破&戦車は「軍靴の響き」か「普通の国への第一歩」か

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2013/3/30にTM2501氏らと座談会Ust中継を行います。詳細は今月の30日にTM2501さんなどを招いてUst中継をやります - 斜め上から目線をごらんください。皆様のご視聴・コメントお待ちしています!

毎日jp(毎日新聞)
【ガールズ&パンツァー】トークショーで石破茂幹事長からまさかのビデオメッセージwwwww|オタク.com
茨城県大洗市で開かれたガールズ&パンツァー(通称ガルパン)というアニメ作品のイベントに、自民党の石破茂幹事長が登場し、そして戦車が展示されたという話を聞いた時に、僕は「それは危険し、嫌だ」と思いました。
ただ一方で、そういう考えが今のネットにおいては異端であり叩かれるだろうということも容易に想像出来ます。事実、先に挙げた上記2つのニュースに対するネット上の反応は称賛一色であることが、はてなブックマークなどからも見て取れます。
はてなブックマーク - 茨城県大洗町:町おこしで74式戦車登場 アニメ「ガルパン」きっかけに- 毎日jp(毎日新聞)
はてなブックマーク - 【ガールズ&パンツァー】トークショーで石破茂幹事長からまさかのビデオメッセージwwwww|オタク.com
これらはてなブックマークのコメントの中には、僕のような「危険ではないか」という反応を先回りして予測し、揶揄しているようなコメントもあります。

id;kingate
ある意味空気を読んで朝日必殺の「ぐんくつの足音」かもーん♪

しかしそうは言ってもやっぱりどう考えても、僕にとってはこれはやっぱり一線を越えてしまっている、危うい行為に思えてならないのです。これを自分の心の内だけに留めておくのはやっぱりどうも気分が悪い。
そこで今回の記事では、今回、ガルパンのイベントに石破&戦車が出できたことの、一体何が危ういと思うのか解説したいと思います。*1

石破茂と戦車展示は、はっきりとリンクさせて考えるべきではないか

最初に、僕がこれらのニュースを聞いて危機感を覚えたとツイートしている時に来た、id:kanose氏からの返信を掲載します。

特撮映画への協力やノーズアートと言われるものと同じというのは確かに戦車の展示だけを見ればそうでしょう。、
ただまず言っておきたいのは、この戦車展示を、僕は石破茂氏という、自民党の国防族の代表のような議員であり、憲法を改正して自衛隊を国防軍にし、緊急事態条項を設けて、非常時には国民の人権を国家が制限できる、そんな規定を設けようとしている政治家がイベントに映像で登場したことと、はっきりリンクさせて考えます。
軍隊と非常事態の規定必要 憲法改正で自民・石破氏 - MSN産経ニュース
:日本経済新聞
石破茂氏が登場し好意的に扱われる場所で戦車が展示される。これは明らかに、軍事力の保有だけでなく、その先の憲法改正、つまり軍事力の行使を認めさせようとするような効果を持つと僕は感じますし、そして僕から言わせればこれは明らかに「アニメを政治的に利用している行為」ではないかと思います。
ただ、この「どこからが『政治的利用』か」という問題は、ネット上でも意見が分かれるところですし、また、その点については以前にも論じたことがあるのでここでは繰り返しません。
二次元キャラクターの「政治利用」はどこまで許されるか - 斜め上から目線

「軍事力を保有すること」と「軍事力を行使すること」の間に、一体どれだけの違いがあるのだろう

また、そもそも僕は「軍事力を保有すること」を肯定することと、「軍事力を行使すること」を肯定することの間に、一体いかほどの違いがあるのかとも考えます。というか、いつの時代のいつの国家だって、軍事力を行使することそのものを直接肯定しません。いつだって軍事力を行使するということは、「もうそれしか選択肢がなくなったのでやむなく……」という言い訳のもとに行われます。それこそ自衛隊のCMやポスターとかを見ればそれは一目瞭然です。そこでの宣伝文句はあくまで「守る」という受動的な行為であって、「攻める」「侵略する」なんていうような軍事力の行使をそのまま肯定するような宣伝文句ではありません。
あるいは単純に軍事力を武器として考えましょう。事務所に、美術目的ではなく戦闘目的のための日本刀や銃器を所持している人がいるとします。そしてその人がそれを事務所の表で見せびらかしている。それを見て、「この人は武器を持っていることを許してほしいだけであって、いざというときにそれを使う気なんてさらさらないんだな」と勘違いするような人がどこにいるでしょう?少なくとも、家の奥にしまってひと目に触れないようにするぐらいのことは求められるでしょう。それは、軍事力を肯定する考えのことからすれば軍隊アレルギーというようなものなのでしょうが、しかし人殺しの道具にアレルギーを感じないとしたら、むしろその方がおかしいと僕は考えます。
軍事力の行使が良いか悪いかをさしおいてニュートラルに考えるならば、「軍事力を保有すること」を肯定することと、「軍事力を行使すること」を肯定することの間に違いなんてありません。そこに無理やり違いを捏造して「保有を肯定しているけれど行使を肯定はしていない」なんていうのは、『一九八四年』のニュースピークと同じ自己欺瞞ではないかと、僕は思います。

キャラクターの手を血で染める「普通の国のサブカルチャー」なんてまっぴらごめんだ

もちろん、そこまで主張しても、「で、それの何が悪いの?」と主張する人はいるでしょうし、むしろそれが多数派でしょう。ガルパンというアニメのイベントにおいて、憲法を改正し、軍事力を行使できるような「普通の国」になろうというメッセージが(暗に)伝えられる、そのことの何がいけないのか?と。僕はそれはいけないことだし、嫌なことだと考えますが゜、多くの人にとってはいけなくない、正当なことだと考えているということもまた、理解しています(恐怖も覚えますが)。
しかしそこで更に僕はこう言いたいのです。
「百歩譲って、日本が軍事力を行使できるようになることを肯定しましょう。でも僕は、その軍事力の行使がアニメのキャラクターの助けを借りて行われ、彼女らが手を血で汚すような状況を作り出すのは絶対に嫌だ!」と。
ガルパンというアニメは、実は僕は見ていません。しかしあらすじや感想を読んだ限りにおいてはこの作品には戦車といった兵器は登場しますが、それを使って殺し合いの戦争をすることはないようです。彼女たちの作品の世界においては「戦車道」というスポーツがあり、そしてそのスポーツにおいては、戦車を使って戦い合うが、しかしそれによって死人がでることはないという、そういう設定のようです。なんか、そんな設定を読んでいると「絶対に死なない戦争」を描いた『スカイ・クロラ』なんていう作品を連想したりしてちょっと不気味ですが*2、とにかくそういうアクロバティックな設定を通じて、殺し殺されるような世界と少女たちが生きる世界をうまく切り離しているのです。
ところが、このガルパンのイベントに現れた戦車は、本物の、国家の軍隊が保有している戦車なのです。ということは、そんなことが起きることは絶対にいやですが、もし戦争が起きれば、この戦車が敵を殺します。その時に、少なくとも僕は、ガルパンというアニメのキャラクターをこれまでと同じように無邪気に愛でることはできなくなります。
そのようなことには前例があります。二次元キャラクターの「政治利用」はどこまで許されるか - 斜め上から目線で紹介した、米軍のこんな写真。

そして、それに付いたアメリカ人共のコメント

10:Hachi-Machi
ビン・ラディンワルプルギスの夜の翌朝(4月30日〜5月1日までが実際のヴァルプルギスの夜の期間)に殺された・・・。偶然なのか?それともまどかがやったのか・・・?
11:KodeDekka
まどかが殺したんだよ!

僕はこれを読んで吐き気を覚えました。何度も言ってきたことなので今更繰り返しませんが、ぼくはまどマギという物語が大嫌いです。しかしそれを差し置いても、中学生の女の子のアニメキャラクターに、ネタだとしても、自分たちがやった暗殺の業を背負わせ、そのことに何の罪悪感も覚えない態度。これはもう、卑怯・傲慢・邪悪etc..といった、この世のありとあらゆる「悪いこと」を表現する言葉を持ってきても言い表せない悪であると、僕は感じざるを得ません。
もちろん、アメリカという国は、アイドルが軍隊を慰問したり、アメコミのヒーローがやカートゥーンのキャラクターが戦意高揚のパフォーマンスを行ったりする国ですから、アメリカの価値観からすれば、こういう風にサブカルチャーのキャラクターに現実の戦争の業を背負わせ、そのキャラクターの手を敵の血で染めるような行為はごく当たり前のことであり、何も悪いことではないのでしょう。そして、そのようなアメリカみたいな姿が「普通の国」のあり様ならば、今回のガルパンのイベントのように、アニメのキャラクターも積極的に軍事利用され、お国に奉仕する姿は、日本という国が「普通の国」になり、そして、日本のマンガやアニメといったサブカルチャーも、戦争経験に束縛された世代から解き放たれて*3、普通の国のサブカルチャーになる第一歩なのかもしれません。
しかし、僕ははっきりと、そんな「普通の国のサブカルチャー」なんてまっぴらごめんだと、主張したいのです。そしてそんな僕の考え方からすると、今回のイベントや、今回のイベントも含めた、自衛隊という軍隊とオタクのサブカルチャーの接近は、一線を越えた、危険なものに思えてならないのです。

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2013/3/30にid:TM2501氏らと座談会Ust中継を行います。詳細は今月の30日にTM2501さんなどを招いてUst中継をやります - 斜め上から目線をごらんください。座談会ではAKBとか会田誠の問題とかについて話すということで、今回の記事と関連する話も出てくるかもしれません(というか多分出てくる)。この記事を読んで、少しでも面白いなと思ったり、またはその反対にこの記事はおかしい!記事を書いたあままこに突っ込みたいことなどがある場合は、ぜひUstを見て、コメントしてみてください。皆様のご視聴・コメントお待ちしています!

*1:もちろん幾ら解説したって多くの人は理解できず、「お花畑平和主義wwwwww」と嗤うのでしょうがね。

*2:そういう点では、これはたしかに水島努監督の作品なだろうなぁ

*3:テヅカ・イズ・デッド