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コミケ「韓国人・中国人お断り」張り紙問題についてのまとめ

3行まとめ

  • コミックマーケットコミケ)95において、あるサークルで「韓国人・中国人お断り」という張り紙がされていたという証言が上がり、問題となっています
  • 更に、上記の張り紙について見解を問われたコミケ準備会が、法律で規制できない以上、そのような張り紙は容認すると解釈できる発言をしたことも大きな問題となっています
  • 「韓国人・中国人お断り」という張り紙が法的に本当に問題ないかについては、多くの人が過去の判例や近年施行された法律・条例をもとに疑義を呈しています

このまとめについて

このまとめは、コミックマーケットコミケ)95において、あるサークルで「韓国人・中国人お断り」という張り紙がされていたという証言から始まったさまざまな事象について、現時点(2019/01/04)でわかっていることや、この事件を考えるにあたって参考になりそうな知識についてまとめたものです。

なお、まとめ主自身が「韓国人・中国人お断り」という張り紙を容認すべきではないという立場なため、そのような立場からの情報に偏っています。

なので、もし「このまとめは偏ってる!」と考える方がいたら、是非そのような立場からまた別のまとめ記事を書いていただければと思います。

問題の経緯について

発端は、ある一般参加者が、コミックマーケットコミケ)95三日目に、「韓国人・中国人お断り」という張り紙をしているサークルを見たという告発をした*1ことでした。 そして、コミケ後、コミケ反省会というイベント*2において、「韓国人・中国人お断り」という張り紙をどう思うか問われた準備会が、次のように答えたことも、大きな波紋を呼びました。

どういう方法で頒布するかはサークルの判断と責任に委ねている。日本の法律に違反していない以上、準備会からは口出しする案件ではないと思う。

ヘイトスピーチとか云々…」グレーな状態であることは理解しているが、他のスペースには「男性お断り」としているスペースもある。*3

コミケ準備会がこのような見解を示したことについて、多くの人が問題視し、「コミケ準備会はこのような張り紙を許容しないとはっきり言い、再発防止策を取るべきではないか」という声を上げています。

問題が話題になったあとにtwitter上で行われたアンケートでは、3000人が回答したアンケートで約半数が「コミケ準備会が、c95で登場した「韓国人・中国人お断り」のビラについて、何らかの再発防止対策を行わない限り、コミケには参加しない。」と回答しています*4

一方でtwitter上では、コミケは「表現の自由」が最大限尊重される場である以上、「韓国人・中国人お断り」というような差別表現も許されるのがコミケという場であり、準備会はこの張り紙を問題視する圧力に屈してはならない、という主張もされており、大きな論争になっています。

そのような張り紙は実際にあったの?

当初、「韓国人・中国人お断り」という張り紙をしているサークルを見たという告発をした人が一人であったことから、その告発は嘘だったのではないかという声が上がりました。

しかしその後、複数人が、この張り紙について反省会で質問がなされた際に、自分がその張り紙をしたことを認めた人がいたという証言をしています。*5

ただいずれにせよ、まずは準備会自身が、事の真偽をはっきり調査し、報告すべきでしょう。

ただ、多くの人は、「韓国人・中国人お断り」という張り紙も問題視していますが、それ以上にコミケ準備会がそのような張り紙をすることを容認するような発言をしたことを問題視しています。 そして、準備会がした発言自体については、とくに疑義は出されていません。

本当に準備会が言っているように、「韓国人・中国人お断り」という張り紙をすることに法的に問題はないの?

実際は大きな問題があるのではないかと言われています。

法的な問題としては大きく二つがあります。

それぞれについて解説していきます。

ヘイトスピーチ対策法や、東京都人権尊重条例に違反する「ヘイトスピーチ」ではないかという問題

ヘイトスピーチ対策法は、2016年に成立した法律で、その内容は以下のようなものです。

「不当な差別的言動は許されないことを宣言」し、人権教育や啓発活動を通じて解消に取り組むと定めた理念法で、罰則はない。差別的言動の解消に向け、国や地域社会が、教育や啓発広報、相談窓口の設置など「地域の実情に応じた施策を講ずる」よう定めている。

ここでははっきりと「不当な差別的言動は許されないことを宣言」しています。

そして、このヘイトスピーチ対策法をもとに、東京都では2018年に人権尊重条例というものを可決。今年の4月に施行する予定です*6

この条例では、ヘイトスピーチが行われる可能性が高い集会等について、知事の権限で都の施設を利用することを制限することができます*7

なので、もしコミケが「ヘイトスピーチが行われる可能性が高い集会」とみなされれば、ビックサイトなどの仕様が制限される可能性もあるわけです。

国際人権規約人種差別撤廃条約の間接適用による不法行為に当たらないかという問題

また、今回の張り紙はそもそも「韓国人・中国人お断り」というように、国籍によって不当に排斥を行っているとも取れるため、そもそも「差別的表現」ではなく、民法不法行為として損害賠償の対象になるものではないかという声もあります*8

類似の例としては小樽市外国人入浴拒否事件や、宝石店外国人入店拒否事件が挙げられます。これについて詳細は後述しますが、いずれも「国籍を理由に不当な取扱を行ったことに対して、不当な取り扱いを行った人物に損害賠償が命じられた」事件です。

以上のように、「韓国人・中国人お断り」という張り紙をすることが「日本の法律に違反していない」という準備会の説明は、かなり怪しいと思われ、弁護士の方も疑問を呈しています*9

今回の問題に似たような例って何がある?

とりあえず以下のような事件があり、いすれのケースにおいても、「韓国人・中国人お断り」のような張り紙は結局は許容されなかったということを知っておくべきでしょう。

浦和レッズ差別横断幕事件

浦和レッズの主催試合において主催者が「JAPANESE ONLY」という差別横断幕をスタジアム内に掲示した事件です。サポーターの差別横断幕自体もさることながら、抗議を受けながら試合終了までそれを黙認し、問題発覚後も曖昧な態度を取っていたチーム側にも大きな批判が集まり、結果として無観客試合などの制裁が課され、当該サポーターグループの永久出入り禁止・他のサポーターグループの解散・横断幕の全面撤去・応援方法の規制強化などが実施されることとなりました。

個人的には、「集団内でのローカルルールが結果として差別を容認することになってしまった」という点や、「差別表現をした人間だけでなく、それを黙認した運営側の責任こそが問われた」という点において、まさしく今回の事件で参照されるべき事件じゃないかと考えています。

参考リンク

d.hatena.ne.jp - 浦和レッズの現状と今後について|URAWA RED DIAMONDS OFFICIAL WEBSITE business.nikkeibp.co.jp

 インサイダーの判断は、いつもこんな調子のところに落ち着く。  仮に差別を糾弾する記事を書いたサッカー記者がいたら、彼は、「空気を読めないヤツ」(←だって、彼の記事で被害を受けるのは、差別をした人間じゃなくて、サッカーそのものだから)という感じの扱いを受けたはずだ。

 いや、これは、私の憶測に過ぎない。  でも、そんなに外れていないと思う。

 インサイダーは、愛するものを守ると言いながら、その実、自分の身を守っている。  というのも、インサイダーにとって、自分が帰属する集団は、自己利益そのものだからだ。

今回の騒動について、「コミケを守るため」と言って差別張り紙や、準備会を擁護している人は、まさにここでいう「インサイダー」になっちゃってはいないかと思うのですが、どうでしょう?

小樽市外国人入浴拒否事件・宝石店外国人入店拒否事件

www.hurights.or.jp

1999年10月に静岡地裁浜松支部は、ブラジル人であることを理由に入店を拒否した宝石店主の行為について人種差別撤廃条約を間接適用し、これを不法行為とする判決を下した。被告が控訴しなかったためこの判決は確定し、日本の裁判所が人種差別撤廃条約を適用した最初の裁判例となった。1990年代後半から北海道など各地で公衆浴場や居酒屋による「外国人お断り」の動きがあり、これに市民団体が反発し、人種差別撤廃条例の制定を求める運動が活発化した。2002年11月の小樽入浴拒否事件に関する札幌地裁判決では、公衆浴場による外国人の入浴拒否は人種差別撤廃条約の趣旨からして私人間でも撤廃されるべき人種差別にあたるとして、これを不法行為と認定した。

参考リンク

news.yahoo.co.jp

最後に

もちろん、現実にコミケ準備会が全てのブースを点検し、差別的張り紙がなされていないかチェックすることは不可能でしょう。

ただ、だとしても少なくとも今回の「韓国人・中国人お断り」のような張り紙は、規約で明確に禁止し、それが報告されたら即座に頒布禁止にする、ぐらいの措置は取るべきでしょう。

中には下記のように「同人の主催にそこまで求めるな」というような声もあります。

コミケは一般社会から遊離した、「社会の外」の存在だから、差別も許されるべきだという声もあります。

しかし、そのように「同人だから許される」「自分たちは社会の外の存在」というのは、あくまでコミケの内輪の論理であって、外には通じないというのを、コミケ参加者は自覚すべきじゃないかと、僕は思います。

もちろんなんでもかんでも社会一般の価値観を優先すべきという話ではありません。社会全体のメインカルチャーに対するカウンターとしてコミックマーケットが存在してきた、この意義は僕も認めますし、一参加者として、この場を潰したくはないと思います。

しかし、それを隠れ蓑にして、差別や排外主義が温存される場所にコミケがなってしまうのなら、残念ながら、そんな場所は潰してしまうべきとも、一市民として思います。

この先、準備会、そして参加者一人一人がどういう対応を取っていくのか、注視していきたいと思います。

参考リンク

matome.naver.jp togetter.com kamiyakenkyujo.hatenablog.com