あままこのブログ

役に立たないことだけを書く。

はてなサヨクが遺したものについて

davitrice.hatenadiary.jp
上記の記事に対し、僕は
amamako.hateblo.jp
で応答する一方で
b.hatena.ne.jp

本当は、記事で挙げられたようなIDの人たちが応答すべきだと思うのだけれど

と書いていたんですが、id:hokke-ookami氏が応答記事を書いてくれたみたいで
hokke-ookami.hatenablog.com
誘ってしまった僕が傍観しているのも思うので、記事を書きます。

id:hokke-ookami氏の指摘にid:davitrice氏は応答すべき

まず、僕はid:hokke-ookami氏がid:davitrice氏のはてなサヨク批判に対し

念のため、「はてなサヨク」と呼ばれる全ての人がきちんと常に自説の根拠を提示しているわけではない。しかし「はてなサヨク」を「反面教師」とした貴方が、それゆえ主張の根拠を提示する手間を省くようになったのだとしたら、あまりに愚昧で怠惰なふるまいだと思う。「反面教師」にするのなら、「はてなサヨク」がグウの音もいえないくらいしっかり根拠立てて自説を主張する方向にしないか?
貴方が自説の根拠をもちつつ省略した可能性を念頭におくならば、上記の私の要求は勇み足になるかもしれない。しかしながら、上記と同じように貴方が誤った記憶もしくは捏造によって「はてなサヨク」を論難していると私は考えている。

と、指摘しているのはもっともだと思っていることを、最初に述べておきます。
実際、id:davitrice氏の記事を読んでいて僕が最初に思ったことも、「ここでid:davitrice氏が批判している『はてなサヨクのやり方』て、具体的に何のことを指すんだろう?」ということでした。僕はそれでも勝手に「はてなサヨクのこういう主張を批判しているのかな?」と思って、その仮定の上でid:davitrice氏に反論する記事を先日書いたわけですが、しかしやっぱりはてなサヨクを批判したのはid:devitrice氏なんだから、id:devitrice氏が具体的に「はてなサヨクのこの論争におけるが私を失望させた」ということを書いてしまっても、議論は空回りするだけでしょう。
もちろん、「これは別にはてなサヨクを批判するために書いたわけではなく、ただ書き捨てただけの文章」ということも可能ですが、それなら結局、id:hokke-ookami氏が言うように「それってあなたが勝手に想像(捏造)している『はてなサヨク』であって、IDで示された実在するはてなサヨクの人たちとは関係ありませんよね?」という疑義通りということになると思うわけです。

なぜ自分の記憶を捏造してまで「はてなサヨクはダメだった」と言うんだろう?

ただ、そこで僕が思うのは、「では何でid:davitrice氏は、実際IDで例示されるような人たちの主張を読んでいたのに、そういう風に想像してしまうんだろう」ということなのです。
もしこれがそこらの捨て垢Twitter上でだけ呟くような零細アカウントの記事なら、そんなに気にならないでしょう。しかし、id:devitrice氏は、氏のブログ
davitrice.hatenadiary.jp
や、各種メディアでの連載
gendai.ismedia.jp
s-scrap.com
を見れば分かる通り、海外の倫理学進化心理学などの議論について精通し、僕なんかより遥かに知識もある人なわけです。それこそ、id:devitrice氏がTwitterで上げたアカウントにの人たちと同じぐらいには。
そういった、知的誠実さという点では文句のつけようがないような人が、なぜ「はてなサヨクはダメだった」と、自分の記憶を捏造してまで主張してしまうのか、それが僕にはどうもわからないのです。僕が本当は、記事で挙げられたようなIDの人たちが応答すべきだと思うのだけれどと書いたのは、そういう僕自身が抱いた疑問に対する答えが、id:devitrice氏への応答によって分かるからじゃないかなと思ったのです。

はてなサヨクの鬼子としてのid:devitrice

そして、上記のid:hokke-ookami氏の応答を読むと、その理由がちょっと分かる気がしてくるんですね。
上記の応答で、id:hokke-ookami氏はid:devitrice氏の

考えてみると当たり前の話だが、アカデミックなものを求めるなら、ブログじゃなくて、海外のものとか古典とかを含めて最初から本を読んどけばいいのである。

という主張に対し、次のように

まず、このエントリで手がかりとなる「ブログじゃなくて、海外のものとか古典とかを含めて最初から本を読んどけばいい」という発言ですが、そもそもそれは「はてなサヨク」※2と呼ばれていた人々の主張ではないでしょうか?
日本の歴史的な加害を否認する相手へ、よく「新書一冊」というキーフレーズが登場していたことをおぼえていないでしょうか。専門的な資料や論文を読み比べなくても、一般的な書籍を一冊でも読むだけでも違ってくるはずだという期待です。
私自身も何度かそのような表現をつかっていますし、十年以上前にキーフレーズと意識してタイトルをつけたエントリも書いています。

https://hokke-ookami.hatenablog.com/entry/20090810/1249942659
>おそらく本当に新書一冊も読まない人
https://hokke-ookami.hatenablog.com/entry/20150119/1422112600
>植村記事における慰安婦と挺身隊の混同と違って、一般的な新書を一読すれば誤りと判明することが堂々と書かれている。

歴史論争において、少なくとも私などのブログより、一般的な書籍をちゃんと読むことが重要だと過去から現在まで思っています。だからこそ私は基本的に書籍や専門家のページを紹介するようにしましたし、頁番号などもできるだけ注記してきました。
それどころか証拠を動画で要求されて困惑した経験すら私はあります。名前のあげられた人々でも、専門領域でのhokusyu氏などの例外はありましょうが、本を読むより自らの動画やブログを読むよう積極的に求める人はそれほどいなかったのではありませんか? 推測になりますが、それゆえnoteなどへ移行してマネタイズをおこなう人も少なく、専門家の発信が強化されるにしたがってブログの存在感が減っていったのかもしれません。
こうして「反面教師」な人々が求めていた行為について、貴方は肯定的にしか語っていません。それが「はてなサヨク」の「反面教師」ではない二割だとして、「反面教師」な八割はどこにあるのでしょうか?

はてなサヨクこそ『本を読め』と言ってきたじゃないか」という反論をしています。
そして、日本の歴史認識問題などについてのid:devitrice氏の認識の誤りを、まさしく本などの資料によって論証するわけです。
これ自体はすごく正しいと思うんですよ。それこそ、日本の歴史認識にたいする現代思想界での論争を追いかけるなら、それこそ上野v.s.朴論争や、それに対して人々がどういう立場を取ったかなんかて知ってて当然だし、それを知ってれば「はてなサヨク上野千鶴子に影響されてんじゃねーの」なんておかしなことは言わないでしょう(というかむしろ現在は、はてなサヨクこそ、移民問題とかで上野氏を多く批判しているわけで)。
ただ、ここで僕が思うのは、はてなサヨクのそういう「これを知らないからお前は馬鹿なことを言うんだ。これを知ってればお前はそんな馬鹿なことは言わないはず」という、ある種の「知識の基づく上から目線の啓蒙」の限界なんですね。
id:devitrice氏は記事では述べてないですが、id:devitrice氏があまり日本の左派に属する思想家・学者たちを好きじゃないのは、id:devitrice氏が専門としている、ピーター・シンガーやジョセフ・ヒースと言った功利主義的な哲学者や、ジョナサン・ハイトといった進化心理学の著書を読むと、日本の左派の現代思想とかが空理空論にしか思えなくなってくる、ということだと思うんです。
具体的に言えば、これらの著者の本では、人間というのは生得的にある種の特性を持っており、男女間では思考の仕方とかに違いがあり、リベラル派が毛嫌いする「権威や伝統に従う」「集団のために自分を犠牲にする」というのも本能として備わっているとされ、そういった生得的な要素を前提として社会制度を設計しなければならないと主張されています。そして、そういう主張に立てば、日本の左派の主張は、人間の生得的特徴を無視した空理空論にしか思えないと、そうなるわけです。*1
そして、そういう立場からすると、「日本のサヨク功利主義哲学者や進化心理学者の本を読んでないからそんな馬鹿なことを言うんだ。功利主義哲学や進化心理学を知ってればお前らはそんな馬鹿なことは言わないはず」となるわけです。
実はその点でいうと、id:devitrice氏は、自分では「自分ははてなサヨクから転向した」と言いますが、しかし実際は「知識に基づく上から目線の啓蒙」という点で、正しくはてなサヨクを受け継いだ、いわばはてなサヨクの鬼子のような存在なのです。

思想家カードゲームの限界

しかし僕はそもそも、そういう「知識に基づく上から目線の啓蒙」ということそのものに、限界を感じてしまうのですね。
先程も述べたように、僕はid:devitrice氏のことを尊敬して、僕なんかより哲学や心理学のことずっと知っているとおもいます。またその一方で、id:hokke-ookami氏やid:Apeman氏なんかも、僕なんかよりずっと歴史学といった問題に詳しいと思うわけです。*2
ただ思うのが、いくら知識が集まっていたとしても、そこで戦わせる議論が「お前は○○を知らないだろ。でも俺は○○を知ってる。だから俺の勝ち」では、どうしようもないんじゃないかということです。
ちょっと、誰が言った言葉なのか正確には覚えていないのですが、ある日本の思想家は「日本の現代思想界隈は、まるでカードゲームのように思想を扱っている」と言っていました。
例えば、ある人が「マルクスを召喚して自分の主張を証明!」と言うと、また別の人が「ハイエクを召喚してその主張を論破!」というように、まるで海外の思想家や理論をカードのように取り扱って、「どのカードを使えば敵のカードに勝てるか」ということを競い合うゲームをずっとやってるみたいだと、そう日本の現代思想を皮肉ったのです。
id:deviteice氏は「人々に海外の知識を啓蒙したい」ということを、上記の記事を含めしきりに述べます。そしてはてなサヨクも同様に、「新書でもいいから読め」と盛んに主張します。
もちろんそれはそれで重要だと思うのですが、しかしそれだけでは、結局上記でいうような「思想家カードゲーム」の中で、そのゲームをいかにうまく攻略するかの攻略法を競うだけになってしまう。そしてそこでは、「右翼/左翼」という立ち位置さえ、カードデッキの一つに過ぎないから、それこそid:devitrice氏のように「この『左翼』ってカードデッキあんまり強くないから他のカードデッキに乗り換えよ」ということが起きるのではないかと、そう思うのです。
そして多くのはてなサヨクは、結局そういう「思想家カードゲーム」の枠組みから出ることは出来なかったのではないかと、そう思うわけです。

知識で相手を叩くのではなく、生身の人間として対話すること

ただ僕は、はてなサヨクの全てがそういう「思想家カードゲーム」の枠組みに囚われていたとは思わないのです。
id:devitrice氏はTwitterはてなサヨクのIDの例をいくつか挙げてくれましたが、そこには、僕が過去最も尊敬していたはてなサヨクの名前は含まれていませんでした。
その名前は、id:toled常野雄次郎という方です。
futoko50.sblo.jp
togetter.com

僕が常野氏のことを最初に知ったのは、まさしくid:devitrice氏の記事でも話題になった、東浩紀氏の歴史認識問題のときでした。
あのとき東氏は東工大で授業をしていたのですが、常野氏はその授業の現場に乗り込んで、直接東氏にこの問題を問いただそうとしていたのです。
ただ、当時の僕は「そんな風に講義を邪魔するのはよくない」と、むしろ常野氏に批判的な立場でした。
そしてそれ以降も、常野氏は、まだそんなに在特会ヘイトスピーチが問題とされてなかった時代から、ヘイトスピーチに反対する会でそういった排外主義に立ち向かったりといった活動をする一方、ブログではテラ豚丼
www.itmedia.co.jp
といったバイトテロを、資本主義社会に反対するものとしてむしろ称賛するような、社会をあえて挑発するような記事を書いたりしていました。
sarutora.hatenablog.com
僕は、当時真面目な学生でしたから、そういった主張を「ちょっと言い過ぎなんじゃないか」と思ったりもしながら、しかしその主張の真摯さに、心打たれたりしていたわけです。
なにより常野氏の主張は、id:toledという強烈な個性に裏付けられていたわけです。彼は、ただ本を読んで、それを解釈するのではなく、世界を変革するために行動する人だったのです。
ja.wikipedia.org

哲学者たちは、世界を様々に解釈してきただけである。肝心なのは、それを変革することである。

ここで注意したいのが、常野氏自体は大変知識のある人だったということです。実際彼にリアルであったことがあるのですが、本当に知識もあり、何より頭がいい人でした。
その頭の良さをうまく使えば、それこそどっかの大学でアカポスでも取って立派な思想家になったでしょう。しかし彼はそうしなかった。上から見下ろすのではなく、真正面に「世界」と対峙し、それを、世界に通用する言葉と行動によって変革しようとした。変革に重要なのは知識ではなく、なにより人々の意思であると、気づいていたからでしょう。
僕は、はてなサヨクで重要なのは、知識ではなく、まさにこういう「世界を変える」という意思だと思うのです。しかしそれがid:devitrice氏のような人には伝わってなかったというのが、どうにも悲しくなるのです。

*1:一応言っておくと、僕はそういう主張には反対です。生得的に「そうである」ということと、倫理的に「かくあるべき」ということは全く無関係だし、むしろそれをきちんと切り離してきたからこそ、人間の社会は自然界のような弱肉強食を否定してここまで発展してきたんですから。

*2:まあその一方で、両方とも社会学とか文学批評とかはあんま知らないんだなーと思ったりもするわけですが