あままこのブログ

役に立たないことだけを書く。

マツコの知らない世界「ガールズバンド」特集が文化語りのお手本として無茶苦茶おもしろかった

tver.jp
ので、ガールズバンドに関心があるとはもちろん、そうでない人も、音楽とかに関心があったり、「文化を紹介する」ものを見たり、自分でしていたりする人に、是非7月13日(火)20:56までに見てほしいなと思います。Tverだと一部権利の都合で映像などがなかったりするのですが、それでもとてもおもしろいので!

「ある文化を紹介する」ことのお手本のような回だった

この回は、「ガールズバンド」という文化について、 その誕生からの歴史から、現在のガールズバンド事情について解説する回でした。
マツコの知らない世界』は、この手の音楽ジャンルの紹介を何度かやっていて、それぞれ結構面白いのですが、この回はホント特に面白く、これまでの『マツコの知らない世界』の中でもトップクラスの出来だったんじゃないかと思うわけです。
で、何がそんなに良かったかというと、一言でいうと「一つの史観が番組の中にあった」ということだと思うんですね。

史観とは一体何か。平易な言葉で言うなら「それぞれ個別の事実や現象を、一つのまとまった流れにまとめあげる見方」と言えるわけですが、これが存在していない文化語りって、ほんと背骨がないフニャフニャなものになってしまうんですね。
そして、世の中の文化語りの多くはそういった背骨がないフニャフニャなものだったりするのです。例えば、形式的な共通点はあるけど本質は全然違うように見える個別の作品を並立させて「〇〇という文化にはいろいろなものがありますね」とだけ言うようなものだったり、あるいはただ自分が好きなものを並べて「これが好きなんだよねー」という個人の思い出語りに終始してしまったり……
もちろん、そういった紹介でも、それぞれ個別の作品・人物は、紹介されるだけあってとてもおもしろいから、見れてしまうんですよ。でも、それは「文化語り」の本当の魅力を出してはいないと思うわけです。
しかし、今回の「ガールズバンド」特集はそうではないわけです。もともと『マツコの知らない世界』は、文化を紹介する時に「その文化を紹介する人のパーソナリティ」にも注目している番組なので、史観が含まれる良質な「文化語り」が見られる番組だったのですが、そこで「当事者だから自分の見方からはっきりものを言える」、SHOW-YA

寺田恵子氏が紹介者にいることにより、より史観がはっきりしていくわけです。

「居場所を求める戦いの歴史」として語られるガールズバンドの歴史

では、その史観とは何か、詳しくは番組を見てほしいのですが、端的に言うとそれは「『男性ロックバンド』でも『女性アイドル』でもない居場所を求める戦いの歴史」です。
ロックというジャンルが明らかに男性優位であり、女性がポピュラー音楽をやるにはアイドルをやるしかない時代の中で、アイドルみたいに他人のために演技をするのは嫌で、でも普通にロックバンドをやろうと思っても男性ロックバンドに弾かれてしまうガールズバンドは、「女性がロックバンドをやる意味」を否応もなく考えざるをえなくなるわけです。そこで「女性がロックバンドをやる意味」をいかにそれぞれの時代のバンドが考えてきたかということが、この史観においては収容になるわけです。
そして、その見方において、SHOW-YAみたいな初期のガールズバンドは「男性には負けないぞ」ということをはっきり示し、一方でZONEやWhiteberryといった90年代終わり〜ゼロ年代のガールズバンドは「女性ならではのかわいさ」を取り入れたりした、では現在のガールズバンドは?という風に、一つの流れとして、ガールズバンドの歴史が語られるわけです。

単なる思いつきではなく、一つの史観から社会との関わりが説明されている

そして、このように一つの確固たる史観があるからこそ、その文化と、社会との関わりというものが説得力を持って語られるわけです。
例えば、番組の中では「韓国はダンスミュージック、日本はロック」という風に、国によって好む音楽ジャンルが異なったり、また「女性としてのサウンドを追求することによって社会の中で居場所を獲得するガールズバンドは、すごいフェミニズム的ではないか」みたいなことが語られています。
もちろん、それに対して違う意見を持つ人も多くいるでしょう。実際、僕もフェミニズムへの言及はなにか違うかなーと思ったりするわけですが、しかしそれでもその主張には説得力がある。それがなぜかといえば、それが単なる思いつきではなく、一つの史観から導き出される主張だからなわけです。

反論・批判するに値するものであるって、実はすごい価値があること

一方で、そうやって一つの史観からのものの見方から語ると、どうしてもこぼれ落ちてしまうものというのも存在します。
実際、番組に対する言及をネットで調べると、番組がとてもおもしろかったのを認められながらも、「でもこういう紹介されなかった価値あるバンドもあるよね」みたいなことが、下記の記事やそのブクマを見ても多く語られています。
www.wasteofpops.com
僕はオタクなので、「ガールズバンドにオタクはついてこない」という発言がひっかかりましたし、『けいおん!

realsound.jp
は触れられるのに、それよりもっとガールズロック文化へのリスペクトをにはっきり示している『BanG Dream!が紹介されないのは一体なぜなんだろう。紹介するとしたらどういう文脈になるんだろうと、思ったりするわけです。
でもそうやって思えるのも、番組が一つの確固たる史観を提供してくれたからなんですね。文化とはどんな文化も多面性を持つものだから、ある一つの見方で見ると、かならずそこからこぼれ落ちるものが存在します。でもそうやって「こぼれ落ちる」からこそ、じゃあそのこぼれ落ちるものってなんなのだろうという問いが生まれるわけで、やっぱりまず最初は「史観」が必要なのです。
そういった論争を喚起させる議題を設定したという意味でも、今回の特集はほんと素晴らしい特集だったと、改めて思うわけです。